私の上を通り過ぎていったインド人たち【3】

エッセイ

ヘチマのたわし

潮の匂いがする辺鄙な漁村を、ホンダの原付バイクで走っていると
小道の脇に、痩せたおばあさんがひとり、片手を上げて立っていた。
私がバイクを止めると、おばあさんは「乗せろ」と目で合図した。
私はおばあさんを後ろに乗せて、また、ぶぶん、と走りだした。

横を向いて後部座席にちょこんと乗っかっているおばあさんは、ヘチマのたわしみたいに軽かった。
なんだか体温も感じられない。
風の抵抗も受け流して、柳のようにそよいでいる。

おばあさんに話しかけようとして、私は口をぱくぱくさせた。
おばあさんはその度にうんうんとうなずいて、私の背中をぽんぽんと叩いた。

おばあさんには私の言いたいことがわかっているようだった。
おばあさんは私のことをぜんぶお見通しだ。
私は、おばあさんの前では半透明になれた気分だった。
半透明、というのはありがたいことだ。
透明でない、というのは。

ひと通り口をぱくぱくさせ終えた私の頭に、おばあさんは右の掌をのせた。
頭に手をのせられながら、こんなのは本当に久しぶりだ、と思って、涙が出てきた。
泣くのも久しぶりだ。あのとき、私は泣く間もなかったんだった。

ふいにおばあさんが、私の肩を叩いた。
「ここでいい」
目の前はいつの間にか海だった。
「ここからはひとりでいけるだろう」とおばあさんは言った。

わたしはうなずいてバイクを降りた。
そして、一歩足を踏み出してみた。
地面の感触はない。わたしはヘチマのたわしよりも、もっと軽くなっていく。
うしろでおばあさんが手を振っている。
わたしが口をぱくぱくさせると、おばあさんはうんうんとうなずいた。

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