iPhoneが割れた日

エッセイ

先日未明、私のiPhoneの液晶画面が割れました。

酩酊していた私が店を出て現在時刻を確認しようとした次の瞬間、
こどものころにみた夢の残りかすみたいに、iPhoneは音もなく私の手の中からするりと滑り落ちていきました。

ゆっくりと落下するiPhoneをみながら、ガリレオの実験を思い出しました。
「重い球と軽い球を同時に落としても、落下速度は同じであり、ゆえに物体の落下速度は質量とは無関係」という説、あれはたぶん間違っています。
なぜなら私はいま、このiPhoneの落下を永遠に感じているから。
重い球と軽い球の落下速度は同じかもしれないけれど、思いの詰まったiPhoneの落下速度は決定的に違うようでした。

アスファルトにたたきつけられたとき、彼女は少しだけ声を出しました。
私に聞こえるか聞こえないかギリギリくらいの声で、「いたい」と言いました。
ふだん寡黙な彼女は、いつも何も言わず私のわがままにつき合ってくれました。
家に置いていっても、車に放置しても、尻の下に敷いても、文句ひとつ言わず、ただ笑って許してくれました。
そんな彼女の感情が、今度ばかりは少しだけ漏れてしまった。
事の重大さに気づき、慌てて彼女を抱きかかえると、変わり果てた彼女の姿が私の目にとびこんできました。
ひび割れた彼女の顔にそっと触れると、彼女は少しだけ笑って震えた声で「ごめんね割れちゃった」と言いました。

iphoneが割れた

割れたiPhoneとの生活

翌朝、枕元のiPhoneを手にとり、昨晩の出来事が現実だったことを確認しました。
私のiPhoneの液晶画面は、今日もやっぱり粉々です。
世の中には2種類のiPhoneがあります。
割れたiPhoneと、割れていないiPhoneです。
私は割れたiPhoneを持って街へ出てみました。
天気はよく、風はやさしくそよいでいて、小さな子供の手を引く母親の顔は幸せそうで、私のiPhoneは割れています。
割れていないiPhoneを持っている人は、口々にこう言います。
「iPhoneって超便利」「iPhoneがないと死ぬ」「堀北真希ショックから立ち直れない」

でも私は問いたい。
「あなたが大好きなそのiPhoneの画面が粉々だとしたら、強めにフリックすると指の腹が切れてしまうとしたら、それでもあなたはそのiPhoneを愛せますか?」と。
一定の人は「どんなに醜くても関係ない。それでも私はこのiPhoneを愛する」というかもしれません。
そんな人たちには、「では、堀北真希のこともまだ愛し続けられるというのですか?」と問うてみたいものです。

思春期

生活は荒れる一方でした。
酒の量は増え、博打にも手を出しました。行きずりのオン..(以下略)
夜の街をさまよい、肩がぶつかったチンピラと喧嘩をし、ちょうどよく存在していた路地の奥のゴミ捨て場に殴り飛ばされ、そのまま仰向けで夜空を見上げて泣きました。

私はこれまで、iPhoneに勝手な幻想を抱いていたことを知りました。
どんな扱い方をしても、黙々と私のために働いてくれていたiPhone。
彼女は丈夫で、そう簡単には壊れないだろうと、私はひとりよがりに思い込んでいたのです。

でもほんとうは、彼女はとても傷つきやすかった。きちんと守ってあげないといけなかった。
彼女が壊れるまで私はそれに気づくことができなかった。

たしかにiPhoneは、思春期の揺れ動く少年の心よりは頑丈かもしれません。
でも例えばトランジスタ・ラジオよりは明らかに脆いのです。
音が出なくなったら、ラジオは叩いたら直るかもしれませんが、
粉々に割れたiPhoneは、叩いてもこすっても舐め回しても、もう元には戻りません。

自分の存在が何なのかさえ分からず震えていた思春期を経て、少年から大人に変わろうともがいていた私を、
iPhoneはずっとそばで見守ってくれました。
今度は大人になった私が、iPhoneをちゃんと守ってやるべきだったのです。

旅立ちの時

私の割れたiPhoneはまだ動きます。写真をとることもできるし、FacebookやLINEをすることもできます。
ボロボロの身体で、彼女は必死に役割をまっとうしようとしています。
でも、文字がうまく打てなくなったり、ふとしたはずみに意識が遠のくことも増えてきました。
彼女はもう限界でした。
彼女には休息が、私には次の一歩を踏み出す勇気が必要だったのです。

寝食も忘れ二晩考えて、彼女に告げました。
「おわかれだ。いままでありがとう」
彼女はしばらく静止していました。それはほんの2、3秒のことだったかもしれませんが、数時間にも感じられました。
そしてそのあと、「スライドで電源オフ」画面が音もなく立ち上がりました。
私は、少しの間その画面を見て、ゆっくりとボタンをスライドしました。
画面が真っ暗になったあと、「ほんとうにありがとう。さよなら」と私が言うと、
ぱっぱっぱっぱっぱ、と、画面が白く5回点滅し、
また真っ暗になって、iPhoneは動かなくなりました。
私は粉々の黒い画面を、そのまましばらく眺めていました。

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