私の上を通り過ぎていったインド人たち【7】

エッセイ

インド人

待っている

今日も彼はこの店で待っている。
何十年も続けたこの店で。

でも彼が待っているのは客ではない。
客なんてどうでもいいのだ。
物を売ったり買ったりするのは、実はあまり好きではない。

物を売ったり買ったりするから、お金が必要になって、いろんな争いが生まれるんじゃないか、と父親がいつか言っていて、彼も、なんとなくそんなものか、と思いながら生きてきた。
だけどそんなことも別にどうだっていい。

彼がほんとうに待っているのは、こびとだ。
子供のころ、彼は一度だけこびとに会ったことがある。
当時は父親が経営していたこの店で、彼は偶然こびとを見た。
こびとは、ペプシの空き瓶の口から、身体をねじ込ませようとしていた。
次の瞬間、すぽん、とこびとは瓶の中に入った。

彼は瓶から目を離さず、父親に「ねえ、こびとがいるよ」と言ったが、父親は「ああ」と言ったきりだった。

瓶の中に入ったこびとは、瓶の底に帽子の絵を描いてからまた口までよじ登り、ぽん、とはい出てきた。
そしてちょっとだけ彼と目を合わせてから、空き瓶のケースの奥に飛び降りて消えてしまった。

店中くまなく探したけれど、こびとはどこにもいなかった。
それ以来、彼はこびとに会っていない。
底に帽子の絵が描かれた空き瓶は、今も大事に彼の部屋に飾ってある。

こびとの事を、彼は誰にも話さなかった。
話したら、二度とこびとに会えない気がしたからだ。

あの、とても可愛いこびとは、いま何歳になっているのか。
何歳でも、きっと変わらず可愛いにちがいない。
それともこびとは歳をとらないかもしれない。
どっちでもいいから、あのこびとに会いたい。

こびとのために、空き瓶もたくさん集めてある。
これだけあったら、こびとは一生退屈しないだろう。
いろんな帽子の絵を描いてくれるだろう。

彼は今日もお店を開けて待っている。
こびとは今日来るかもしれないし、明日来るかもしれない。
3年後かもしれないし、10年後かもしれない。
このお店はその日のためにあるのだし、空き瓶は、帽子が描かれるキャンバスとして存在しているのだ。

空き瓶

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