おきなわ泡盛日記 1

エッセイ

もうだいぶ前のことですが、沖縄のゲストハウスで働いていたことがありました。

ゲストハウスというのは、リビングやシャワー、トイレを共同で使う安宿のことです。部屋も相部屋(ドミトリー)だったりします。

そのゲストハウスは那覇中心部の国際通りをちょっとだけ外れた通り沿いにあります。
観光の拠点として利用されるお客さんはもちろん、長期滞在の放浪者や、『ロンリー・プラネット』片手に訪ねてくる外国人も多い宿でした。

お客さんは、1泊1,500円払って、共同部屋のベッドを借ります。
ベッドは寝るためだけのものです。
宿で過ごすお客さんは、広い共用リビングルームに集まってきて、本を読んだり、インターネットをしたり、ごはんをつくって食べたり、語らったり、オリオンビールを呑んだり、思い思いに過ごします。

私はだいたいソファに深々と座って、泡盛をちびりちびりやりながら、鼻をほじっていました。
沖縄の風に吹かれながら鼻をほじるのは、ことのほか気持ちがいいものです。

これは、そんな鼻ほじり生活をつづった記録です。

おきなわ泡盛日記

某月某日 セイン

セイン・カミュ似のアメリカ人客が来た。
私が出会う白人男性の7割は、セインに似ている。
セインの呪いだと思う。
昔、セインが実は禿げてて、かつらで隠しているというTVを観て、なぜか恐怖に足がすくんだことがある。
結局それはエイプリルフール企画でウソだったけども。

宿に来たセインはビールが好きで、オリオンビールの発泡酒版、「麦職人」を夜な夜な飲んでいた。
セインは一人で来たのだけど、なにしに来たのかよく分からない。
オリオンビールを飲みに来たのか、オキナワ戦の歴史をひも解きに来たのか、日本の女の子をハントしに来たのか。
その全部かもしれないし、そのどれでもないかもしれない。
旅の目的をきくのは無粋なのできかない。

セインは、老若男女分けへだてなく同じように接し、だれとでも一緒にビールを飲んだ。
金がないセインはあまり出歩くこともなく毎晩宿で自炊してビールを飲んでいて、宿の主のようだった。
しばらくしてセインがいなくなったあとには、大量の「麦職人」の空き缶が残った。

セインは今もどこかでビールを飲んでいるだろうか。それが「麦職人」だったらいいなあと思う。

某月某日 瞑想

宿のオーナーに呼ばれ屋上に行ってみると、座禅を組んで目を閉じていた。
目を閉じたまま「おれがインドで学んだ瞑想の仕方を教えてやる」と言う。「おれはインドの洞窟で毎日瞑想してたことがあるんだ」

インドの洞窟ではやりたくないけどオキナワの屋上でならやってもいいかと思い、オーナーの向かいに座って同じような格好をして目を閉じてみる。
「ほんとうはアタマを空っぽにするんだが、最初は難しいから、おまえがいちばん大切な人を思い浮かべながらゆっくり深呼吸してみろ」

いざ言われてみると「いちばん大切な人」というのは難しい質問だ。
こちらがいちばん大切と思っていても、相手が28番目くらいに思ってたら哀しい。
今いちばん大切と思っていても、明日の朝には変わってるかもしれない。

そんなことを考えていると「おまえは座り方がまだ下手だ。邪心があるな」と叱られた。
オーナーはそう言うと、縦笛を吹くような口の形をして息をゆっくり吐きながら、振り子みたいに左右に揺れだした。
「フーーーーーーーーーーッ、フーーーーーーーーーーッ」と呼気を吐きつづける、故障寸前の人間メトロノームと化したオーナーを残して、そっと階下にもどった。

キッチンからゴーヤチャンプルーの匂いがしている。
こんな誘惑に打ち克って瞑想できるオーナーはやっぱりすごい人だ。

あなたのビジネスのWeb戦略を、ぜひキタックにおまかせください。

効果を出すためのサイト運営、集客できるウェブ広告

ブログの更新情報をお知らせしています。