第8節「出番に備える」
この日は全国的に雨。新潟市中央区のデンカビッグスワンスタジアムももちろん雨。寒い。ピッチはバシャバシャ。
それでもアルビレックス新潟はいつもと変わらぬ、ボールを大事に、止めて、蹴って、動いて、着実に相手ゴールへと前進していくスタイルを貫いた。
改めて、サッカーが上手い人たちなんだな、と感心する。
水をたっぷり含んだ芝のピッチなんて、トラップするだけでも一苦労なのに…
2試合連続のクリーンシートで、一つの引き分けを挟んでの8戦負けなしを達成。それから今日のヒーローは、今季初出場のスーパーサブだった。これでまたチームの勢いは増すだろう。
金沢の美しい3列
ビッグスワンに乗り込んできた、柳下正明監督率いるツエーゲン金沢。3位につけている。今日はいわば上位対決、負けられない。
アルビのスタメン。GK阿部、DF右から藤原、舞行龍、千葉、堀米。MF高、島田、ロメロフランク、高木、本間。1トップに今日は谷口海斗が入った。
前半から、ピッチの上では互いの色が出まくっていた。
後ろから丁寧に組み立てていくアルビレックス新潟。DF4枚-MF4枚-FW2枚のきれいな3列を崩さず、美しい守備ブロックを敷くツエーゲン金沢。
金沢の守備はよく整理されてたなー。金沢の瀬沼と丹羽の2トップは、舞行龍と千葉の両CBにはあまり食いつかない。その代わりに、中央のボランチを封鎖する。高と島田にいい形でボールを入れさせないことで、そこからの配給を寸断しようとする試み。
2トップの後ろにはMFのラインが4枚、きちんと並んでいて、自分のゾーンに縦パスが入るのを虎視眈々と狙っている。いったんパスが入ると、これでもかというくらい激しいプレッシング。サイドチェンジの際には、素早い横スライドで対応。DFラインも含めて、タテ・ヨコのコンパクトさを保ちつつ、ハーフウェーラインくらいからプレスの強度を高め、自由に前進を許さない。
アルビが圧倒的なボール保持率をキープしていたけど、そこには金沢の狙いも当然あった。そのさま、網を仕掛けて待ち構えるベテラン漁師のごとし。
実際、ボールを奪われた瞬間はどうしてもアルビの守備ラインは整備されていないので、そこにいい形で金沢のロングボールが入るとセカンドボールを拾われ、ピンチを招いたりもしていた。
ボール非保持のとき金沢はとてもコンパクトな陣形がとれていたから、いざ奪って攻めに転じた時に、勢いが出やすいわけである。守ってる時に選手がバラバラに散ってると、攻めに切り替わったときも爆発的な勢いは出づらい。そういう意味で、金沢のコンパクトさと素早いカウンターへの切り替えは脅威だった。
メガネ君、いや…
試合を決めたのは今季初出場の矢村健でしたね。負傷のロメロフランクに代わって、右サイドに入った。久しぶりに見た。髪が伸びてる。
矢村の前にロメロだけど、今季は開幕からずっとすごい。右サイドで、ずっと闘ってる。
いわゆる一般的なサイドプレーヤーとして彼のことを見ると、評価がずれてしまうように思う。身体を張って右サイドでポイントを作る。斜めの動きでペナルティエリアに入りゴールを狙う。守備の圧、前へ、中へ、それから後ろへ。主にそういう仕事を彼はしていて、見ていても十分伝わってくるけど、相当消耗するはず。とにかく縦横無尽、獅子奮迅の動きをしている。
そんなロメロはだいたい後半途中でピッチを去る。体力をほんとうに使い切るのだと思う。すごい選手だ。
そしてそのあと入ってくる選手が、だいたいアクセントとなり、その後の戦い方の舵切り役となる(攻める?引く?)。これが今季のパターンというか、共通理解。
そして今日は矢村健。
後半30分過ぎ、中央でボールを奪った本間至恩がゴールへ直線的に向かうドリブルを開始。右から全速力で並走してくる矢村に、丁寧なインサイドパスが出る。
ワントラップした矢村はGKの動きを冷静に確認しつつ、ボールを浮かして逆サイドに蹴り込んだ。
最初、スラムダンクの、メガネ君こと木暮公延が陵南戦で決めたゴールを思い出した。ベンチに座る、ずっと頑張ってきた男が、ここ一番で出場し、決定的な仕事をした、あの名場面。
ゴールを決めた矢村がベンチメンバーのところに駆け込んでいった場面をみて、目頭が熱くなる。
いや待てよ、矢村はキャラ的にメガネ君じゃないかもしれない…どちらかというとヤスかもしれない。
湘北高校の名バイプレーヤー「ヤス」こと安田靖春。宮城リョータやミッチーにガードのスタメンを奪われるも、腐らずに努力を続け、そしてここ一番で大きな仕事をする「ヤス」。
今日の矢村はヤスを思い出させてくれた。
メガネ君でもヤスでも、こういうメンバーが活躍するから湘北高校はいいチームなのだし、スラムダンクは名作なわけだし、そして今日のアルビの雰囲気も最高だったわけである。
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