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しなのがわ劇場

一角獣とニンゲン

2021年06月18日(金)

PV 185

まずは、私が何者なのか語っておく必要があると思う。

私は、最近ニンゲンに飼われ始めた一角獣だ。ということは、ついこの間まで野生の一角獣だったわけだ。

予想はしていたことだが、ニンゲンに飼われると、生きるのが楽になる。いろんなことを考えなくてよくなる。考えなければいけないのはひとつ。「どうやってニンゲンに嫌われないようにするか」だけだ。

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十数年前まで、われわれ一角獣はほとんどが野生で、ニンゲンに飼われている奴はごく少数だった。ほとんどの一角獣が野放図に動き、食い、繁殖し、生き、死んでいった。それとは対照的に、ニンゲンは計画的で質素な生活を好んだ。それは今でも変わらない。

野生の一角獣がニンゲンと交わらなかったか、と言われればそうではない。同じ世界で、すぐ近くに隣同士で生きていた。だがその関係は必ずしも友好的なものではなかった。

野生の一角獣は頻繁に暴走し、ニンゲンの世界を踏み荒らした。多くのニンゲンはそういう一角獣の横暴を憎んだが、一角獣の物理的な力に屈服しているような状態だった。一角獣の脳は小さいが、力だけは強かったのだ。

しかし時代は変わった。ニンゲンには力の代わりに知恵があったので、暴徒化しがちな一角獣を檻に閉じ込めることに成功した。なぜそんなことができたのか。

一角獣はニンゲンの言葉が理解できないのだが、逆にニンゲンの中には一角獣の言葉を理解できる者が多くいた。一角獣が蹂躙してきたこの世界で、ニンゲンはじっと息を潜めながら一角獣の振る舞いに目を凝らしてきたのだ。

言葉を変えればこうなる。一角獣はニンゲンを見ていなかったが、ニンゲンは一角獣を見ていた。その積み重ねが、今の状況を作っている。

ニンゲンは一角獣の生態を知り尽くしているし、話していることも理解できる。反対に一角獣は自分たちのことしか分からない。自分の欲望を満たすことに小さな脳のフルスペックを費やし、ニンゲンのことなど、考える余地がなかった。

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その結果がこれだ。

今ではほとんどの一角獣がニンゲンに飼われている。
ニンゲンに餌をもらう。そのため、狩りに出る必要がなくなった。
狩りの能力が衰える代わりに、飼い主のニンゲンに媚びる素養を備えた一角獣が増えた。

狩りなんてできなくても、飼い主たるニンゲンに認められれば、幸せに暮らすことができるようになったのだ。

次の世代の一角獣たちは、もはや狩りのことなど考えていない。ニンゲンとの共生が当たり前になったこの時代で、ニンゲンを喜ばせる能力を生まれつき体得している。ニンゲンを喜ばせるには、「一角獣らしさ」を発揮するのではなく、「ニンゲンのような一角獣」として生きることが大事だ、と、専門家は言う。

さらに驚いたことに、今の若い世代の一角獣の中には、ニンゲンの言葉を理解できる者も出てきたようだ。「一角獣のニンゲン化」は、どんどん進んでいる。

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私はつい最近まで野生で生きてきて、限界を感じ、ニンゲンに飼われるという決断をした。この世界で一角獣が不自由なく生きるにはその方が楽なのだ。

先輩たちの中には野生にこだわる者もたくさんいる。元野生としてそういう一角獣を私は応援するが、彼らのニンゲン観はやはり時代遅れであり、高度に発達し覇権を握った現代のニンゲンとは、絶望的に相容れられないと感じる。
ただ、彼らが今さらニンゲンに飼われる、というのは困難だろう。彼らは野生としてずっと生きてきたのだから。

今日も私は、ニンゲンのごはんを、ニンゲンと一緒に食べる。とてもありがたいことだ。野生の記憶や野生の欲望ををうまくコントロールし、ギリギリでニンゲンに飼われることが出来た私は、幸運だったのかもしれない。

これからの一角獣は、ニンゲンが作るこの世界になんとか適応しながら、ひっそりと穏やかに生きていくのがいいだろう。

使われなくなって先端が丸まった角を撫でながら、日がなそんなことを考えている。

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書き手は私

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