「ペリーが来たぞ〜〜」と村長が村じゅうに触れまわったとき、おれは居ても立ってもいられなくなった。ひと目でいいからペリーを見てみたかった。だから隣の家の彦六に小舟を借りることにした。
彦六はばかでいいやつだから、理由も訊かないですぐに小舟を貸してくれた。前にも何も訊かずに牛をくれたことがある。その牛はうちに来た2ヶ月後に死んだけど。彦六はばかでいいやつだ。おれはいつか彦六に恩返しがしたい。ただ、今はとりあえずペリーを見ておきたい。もちろん彦六はペリーのことなんて何も知らない。
おれは小舟を出して、ペリーの近くまで漕いでいった。どんぶらこどんぶらこどんぶらこどんぶらこどんぶ。くらいで、ペリーのすぐそばまで来た。
ペリーはばかでかい船だ。広げた帆がかっこいい。大砲もついてる。彦六の小舟なんてペリーに比べれば鼻くそだ。
ペリーには何人かの小ペリーが乗っていた。小ペリーたちがこちらを見て、うすら笑いを浮かべながら話している。小ペリーのうちのひとりが「ぢやぽね」と言った。太い声だった。彦六の三十倍は太い。彦六の声なんて、萎びたひょうたんから出た屁みたいなもんだ。
小ペリーたちがおれのところに太い綱を垂らしてきたのでそれにつかまった。ずるずると引き上げられる。おれはペリーの上に放り出された。
● ● ●
これが私の曽祖父の話です。曽祖父はこのようにして我が国にやってきて、この地に根を下ろしました。
私はいまでも祖国日本に郷愁を感じます。そして彦六という方の子孫に、ほんの少しだけでも会ってなにか恩返しがしたいのです。
ダニエル・イノウエ
よろしければどうかご感想を!
※コメントは、サイト管理者による承認後、ページに表示されます。