おじさんの顔が、私は好きだ。
私のおじさんは、ふっくらとした、柔らかい顔をしている。
おじさんは、私にとても優しくしてくれる。
おじさんが経営している食堂にふらっと訪ねていくと、
おじさんはいつも
「やあやあやあ!」
と大きな声で迎えてくれる。
「なんでも好きなものを食べなさい!おいしいものは身体にもいいんだから!さあさあさあ!」
と言ってくれる。
私は、壁際のテーブルに座り、好きなものをもしゃもしゃと食べる。
おじさんはよく「日本に行きたい」と言っている。
若い頃、一度だけ日本に行ったことがあるそうだ。
そこでおじさんは空から降る白い粉をみた。
白い粉は、寒い日に空から降ってくる。そして地上に積もって、全部を白くしてしまう。
服も道も家も自転車も牛も。
「ユキ、というんだそうだ。本当にきれいだったよ。ここの海の青もきれいだけど、それと同じくらい、ユキの白もきれいだった」
「ここにユキが降ったら、ゴミは全部消えてしまうね」
「そうだ。全部消える。すごいんだユキは。おれはいつかユキの降る日本に行って、そこで食堂をやるぞ。アナンシャもついてこいよ」
「わかった。連れて行ってね」
私と私のおじさんは、半年に一回くらい、この約束を交わした。
おじさんはよく、色の話をしてくれる。
ゴミの灰色はぼんやりしていて実体がつかめない色、土の茶色はいろんなものを支えるたくましい色、火の赤は見る者を掻き立てもするし落ち着かせもする色、海の青は生命を感じさせてくれる色、そしてユキの白はすべてを包み込むような色。
私は色について思いを巡らす。食堂の壁によりかかりながら、何時間も考える。
「日本には、すごく腕のいいドクターがいるんだ。アナンシャの目も、きっとよくなる。見えるようになるよ。一緒にユキを見よう」
おじさんの顔が、私は好きだ。
私のおじさんは、ふっくらとした、柔らかい顔をしている。
その顔にさわるのが、私は好きだ。他の人よりやさしい感触をしてる。
おじさんと一緒に日本に行って、もしも目が見えるようになったら、白がどういう色か、分かるようになったら、おじさんの食堂で、好きなものを食べながら、おじさんと色についてたくさん話をしたい。
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