弟「おれ、船、漕げるようになったよ」
兄「そうか」
弟「だから一緒にやりたい」
兄「ばか。だめだ」
弟「なんでだ。ばかはお前だ。兄ちゃんと一緒に船漕ぐ人になりたい」
兄「お前はそういう人間じゃないんだ」
弟「ずるいぞ。兄ちゃんばっかりずるいぞ。おれは練習したんだ。船漕げるんだ」
兄「そういう問題じゃないんだ。お前はあの人のあとを継げ」
弟「いやだ。パパの会社なんてぜんぜん楽しくなさそう」
兄「あの人の会社だぞ。楽しいとか楽しくないとかの問題じゃない。お前は社長になるんだよ。船を漕ぐんじゃなくてゆったり船旅を楽しむ人間になれ。あんな小舟じゃない。でっかいクルーズ船だ」
弟「社長になんてなりたくない。あの舟を漕ぎたい」
兄「あの舟を漕ぐのはおれの仕事だ。お前はあの人の会社を継ぐ。社長になったら、いつかおれの舟に乗りに来てくれよ」
弟「」
兄「明日ムンバイに引っ越すんだろ。あっちはでかいビルががんがん建ってるらしい。お前はそのビルの一番上の階で働くんだ」
弟「」
兄「すごく高いビルだから、この川も見えるかもしれないな」
弟「」
兄「それから社長になる男はあんま泣くな。シャキっとしてろ。母さんをよろしく頼むぞ」
弟「」
兄「おれとお前は似てる。あの人とお前より、おれとお前のほうが似てる。おれたちは兄弟なんだ。それはずっと変わらないんだ。おれが船頭でお前が社長でも、おれたちは兄弟なんだ」
弟「」
兄「」
(627字)
よろしければどうかご感想を!
※コメントは、サイト管理者による承認後、ページに表示されます。