第35節「圧に屈する」
谷口のスーパーロングシュートが決まって歓喜に包まれたあと、悲劇が待っていようとは…
それにしても終盤の猛攻は、これぞ秋田、という感じで、恐怖すら覚えました
試合の背景
- ビッグスワン、土曜14:00キックオフ。小雨。
- 新潟は5位。秋田は13位
- 新潟は昇格に向けなんとか望みをつなげたい
試合ダイジェスト
【前半】
静かな展開。新潟がボールを保持し、秋田が構える。秋田の牙城は固く、新潟はゴールに向かった効果的な攻撃ができない。ジリジリと時が過ぎ、0-0で折り返し。
【後半】
一気に試合が動く。コーナーキックのこぼれ球を押し込んで秋田が先制。その後、途中投入された谷口がハーフウェーライン付近から超ロングシュートを決め、同点に。その後は前線のポジションを入れ替えながら新潟がいいリズムで攻撃を仕掛けるが、得点できず。逆にロスタイム、押し寄せる秋田の猛攻に耐えきれず、オウンゴール。1-2で敗戦。
スーパーゴール
ブラウブリッツ秋田の吉田謙監督。やっぱいいな。この人のインタビューが好き。
質問されて、ちょっとためたあと吐き出される最小限で直線的なメッセージ。「秋田のために、走る」何回も言ってた。このインタビューを聞くだけでも、秋田の試合を観る価値はある。
その言葉が乗り移ったかのように、秋田の選手たちは「秋田のために走って」いた。そして最後まで走り抜いて、新潟の地で勝点3をもぎ取っていった。
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アルビのスタメン、前節から3枚変更。
GK阿部航斗。DF藤原奏哉、千葉和彦、舞行龍ジェームズ、田上大地。MF福田晃斗、島田譲、三戸舜介、高木善朗、シマブク・カズヨシ。FW鈴木孝司。
注目は左サイドに入ったシマブク・カズヨシ。ペルー生まれ、浦和ユースを経て新潟医療福祉大学在学中の、Jリーグ特別指定選手だそうだ。本間至恩や三戸舜介のように攻撃のアクセントとなれるか。
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19節の前回対戦時は、新潟のいいところが出て完勝できた。今日はどうか。
立ち上がり、アルビがボールを保持、秋田はある程度引いてブロックを作って構える。予想通りの展開。
だけどアルビは、どうも鋭い攻撃が繰り出せない。秋田はもちろん集中して守ってるが、アルビの攻撃も、やや単調というか、ゴールに向かう覇気のようなものが希薄な気がする。ボールはよく動かせてるんだけど。
こういう時はサイドの1対1で突破口を見いだせればいいが、両ワイドの三戸とシマブク、悪くはなかったんだけど、タテにドリブル突破を試みるシーンが少なかった。遠慮なのか、パスワークのリズム重視だったのか。リズムを壊してでも強引に行く、ってのがもう少しあっても面白い気がした。
前半は静かに終わっていった。
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そして後半、試合が一気に動く。秋田がコーナーキックから先制する。元アルビのセンターバック、増田繁人にやられた。
先制されて、アルビは目を覚ます。
谷口海斗など、選手を次々に投入。前線の立ち位置をずらして、流動的に動かすようにした。鈴木と谷口の2トップが基本になるが、鈴木が中央で構えてできるだけクサビを受けたりセンターバックを引きつけたりしつつ、谷口はその周囲で何度も裏抜けを狙う。このコンビ、役割分担がまず効果的。
それから2列目も高木がやや左寄りにポジションを移し、三戸が中、両ワイドで矢村健と堀米が幅をとる。高が1枚アンカーで幅広く睨みをきかせる。それから右サイドバックの田上は前の状況を見ながらインナーラップを仕掛ける。
選手がポジションに縛られず、状況をみながらいい場所、いい場所を探して動く。そして全体としてはバランスが取れている。相手のDFは、誰が誰を捕まえればいいのか、簡単にわからなくなる。
これはいいときのアルビの状態。
そして、谷口のスーパーゴールが生まれた。ハーフウェーライン付近で受けて前を向き、GKの位置を確認してそのままシュート。前へ出ていた秋田GKの頭上を越し、ボールはゴールへ吸い込まれた。
このシュートにはもう、ビッグスワン大興奮ですよね。すごかった。シュートのセンスって言っていいんだろうか、あそこでゴールを見て、判断して、決断して、打って、しっかり枠に入れる技術。とにかくすごい。
無骨な男と、無骨なサッカー
1-1になって、ビッグスワンは一気に勝ちムードに包まれた(はず)。
しばらくは、気持ちよさげに動いてパスを回す、今季のアルビの良いサッカーが見られた。こういう時間はほんとに楽しい。
でも秋田も、アルビのポジション移動に手を焼きながらもしっかり爪を研いでいた。粘り強く守り、ひとたびボールを奪えば、ゴールに向かって直線的に走り出す選手に、シンプルで速いボールを送り込む。これが「かまくらディフェンス」そして「なまはげカウンター」なのか。いやそんな言葉ないけど。
気持ちよくサッカーしていたはずが、点が奪えず、「くそ、もう少し、あと一歩」と思いながらやってたらいつの間にか秋田のパワーが増幅してきていたのだった。
ディフェンスで耐える時間が長いほど、より大きなパワーが充填されるかのよう。そしてそのパワーが解放された時には、これまでの鬱憤を晴らすかのような、巨大なエネルギーが放出される。
それがロスタイムに一気に噴出した。秋田の選手が、これまでの形勢をひっくり返してアルビ陣内になだれ込む。アルビDF陣がなんとかかき出しても、意地でもそれを繋がせない。秋田がまた拾い、ゴールに迫る、襲いかかる。
この圧は強烈だった。無骨な吉田監督が作り出した「秋田のために、走る」サッカー。
アルビが勝点3を目指してギアを上げるはずのロスタイムは、逆に、充電完了した秋田のエネルギーが解き放たれる、ビッグスワンにとっては悪夢の4分間となった。
そして糸が切れるように、オウンゴールから失点。秋田の無骨な男たちの圧力が生み出した決勝ゴールだった。
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吉田謙監督とブラウブリッツ秋田のサッカーは、アルビのそれとは対照的。アルビのサッカーも楽しいけど、秋田のサッカーも人を熱くさせるなにかがあって好きだ。
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